
- 学名: Prionailurus planiceps(プリオナイルルス・プラニセプス)
- 英名: Flat-headed Cat
- 分類: ネコ科ベンガルヤマネコ属
- 体長: 40〜56cm(頭胴長)
- 尾長: 13〜17cm
- 体重: 1.5〜2.2kg
- 寿命: 野生で約10年、飼育下で最長14年

- 学名: Prionailurus planiceps(プリオナイルルス・プラニセプス)
- 英名: Flat-headed Cat
- 分類: ネコ科ベンガルヤマネコ属
- 体長: 40〜56cm(頭胴長)
- 尾長: 13〜17cm
- 体重: 1.5〜2.2kg
- 寿命: 野生で約10年、飼育下で最長14年
マレーヤマネコってこんな動物!
- 水辺に特化した唯一のヤマネコ:足指の間に水かきがある稀有なネコ科動物
- 独特な平たい頭部:「フラットヘッドキャット」の愛称で親しまれる特徴的な外見
- 泳ぎの名手:魚や甲殻類を水中で捕まえる驚異的な水中適応能力
- 謎に満ちた生態:最も研究が進んでいないネコ科動物の一つ
- 深刻な絶滅危機:成熟個体数2,500頭以下の絶滅危惧種
この記事では、東南アジアの「水辺の忍者」マレーヤマネコの驚くべき生態から今日からできる保全活動まで徹底解説していきます。
マレーヤマネコの分類と分布

ベンガルヤマネコ属の特殊なネコ
マレーヤマネコは、ネコ科ベンガルヤマネコ属に分類される食肉類です。
同じ属には、ベンガルヤマネコやスナドリネコなどが含まれますが、マレーヤマネコは水中適応という特殊な進化の道を歩んだ唯一の種なんです!
学名の意味
- Prionailurus:のこぎり(prion)+ネコ(ailurus)
- planiceps:平らな(plani)+頭(ceps)
限定的な生息分布
マレーヤマネコは、インドネシア(ボルネオ島、スマトラ島)、タイ南部、ブルネイ、マレーシアに分布しています。
主な生息国・地域
- マレーシア:マレー半島南部
- インドネシア:ボルネオ島、スマトラ島
- ブルネイ:沿岸部の湿地林
- タイ:南部(記録は1995年のものを最後に途絶えています)
特殊な生息環境
マレーヤマネコは、マレー半島、ボルネオ島、スマトラ島の低地熱帯雨林に生息します。
他のヤマネコと大きく異なるのは、水辺への強い依存です。
好む環境
- 低地の泥炭湿地林
- 川や湖沼の水辺
- マングローブ林の縁
- 二次林やオイルパーム(アブラヤシ)のプランテーションでも目撃
目撃情報の多くがそうだったことから、川などの水源が近くにある所に生息すると考えられています。
研究事例
水辺での驚きの行動
マレーヤマネコと水辺の関係を示す興味深いエピソードがあります。
2005年、ボルネオで霊長類の研究者たちが偶然マレーヤマネコを罠で捕獲しました。研究者たちが川岸から約10メートル離れた森林でケージを開けると、マレーヤマネコは木陰に逃げ込むのではなく、まっすぐ川岸に向かって歩いていきました。
そして驚くべきことに、そのまま水に滑り込んで潜水し、約25メートル泳いで対岸まで移動したのです!
この行動は、マレーヤマネコにとって水が安全な避難場所であることを示しています。一般的なネコ科動物が木陰や岩陰に身を隠すのに対し、マレーヤマネコは水中を安全な逃げ場として認識しているのです。
カメラトラップでの発見
2013年、マレーシアでの調査中に興味深い発見がありました。
熱帯生態系評価・監視ネットワーク(TEAM)のカメラトラップが、サルによって地上40cmから10cmの高さまで動かされてしまったのです。
ところが、この予期しない「事故」によって、小型で地面近くを移動するマレーヤマネコの撮影に成功しました。
この発見により、マレーヤマネコは下草の中や小さな動物の道を利用して移動することが確認され、従来のカメラトラップ設置方法では捉えにくい理由が明らかになったのです。
驚きの身体的特徴

マレーヤマネコは、ネコ科動物の中でも極めて特殊な進化を遂げた種です。
水中生活への適応により、他のネコとは大きく異なる身体構造を獲得し、「ネコらしくないネコ」として研究者たちを驚かせ続けています。
独特な「平たい頭」
頭部はやや扁平で細長く、英名(flat-headed=平たい頭の)の由来になっています。
この特徴的な頭部の形状には、水中での狩りに適応した理由があると考えられています。
頭部の特徴
- 前後に細長い流線形
- 平坦な額
- 小さく丸い耳介
- 褐色の虹彩
水中適応の証拠
マレーヤマネコの最大の特徴は、水中生活への適応です!
水中適応の特徴
- 水かき:指の間には水かきがあり、上手に泳ぐ
- 特殊な爪:爪を引っ込めることができない
- 流線形の体型:水中での素早い動きに適応
- 特殊な歯:彼らの歯、特に上顎の第一、第二臼歯は鋭く、大きく発達しており、これはカエルや魚など、滑りやすい獲物をしっかりと捕らえることへの適用だと考えられる
このような特徴を持つネコは、他にスナドリネコとチーターだけです。
コンパクトな体格
体長40-56cm。尾長13-17cm。体重1.5-2.2kg。
尾は短く、体長の1/3-1/4で、イエネコよりもやや小柄な体格です。
被毛の特徴
- 背面の毛衣は濃褐色で、灰色や淡黄色の斑点が入る
- 腹面の毛衣は白く、吻端や顎、胸部には暗色斑が入る
- 耳介の後方は黒い体毛で被われ、白い斑点が入る(虎耳状斑)
- 頬に黒い縦縞が入る
水辺での生態と行動

マレーヤマネコは、ネコ科動物では珍しい水中での狩猟に特化した生活を送っています。
夜行性で単独行動を基本とし、魚や甲殻類を主食とする独特な生態は、他のヤマネコとは一線を画する特殊性を示しているのです。
水中での狩猟スタイル
マレーヤマネコは、野生個体の胃の内容物から魚や甲殻類を主に食べていることが分かっています。
主な獲物
- 魚類:小型の淡水魚
- 甲殻類:カニ、エビ類
- 両生類:カエル、イモリ
- 爬虫類:小型のトカゲ
- 小型哺乳類:ネズミ類
- 果実:機会的に摂食
興味深い採食行動
興味深いことに、彼らはアライグマのようにえさを水中で洗うことが知られています。
この行動は、獲物についた泥や汚れを落とすためと考えられており、非常に高い知能を示しています。
夜行性の単独ハンター
マレーヤマネコは、夜行性ないし薄明性の動物です。
行動パターン
- 夜間に水辺で活発に狩りを行う
- 単独で観察されていることがほとんどであることから、単独性であると思われる
- 昼間は木の上や茂みで休息
- 縄張りを持ち、匂いでマーキング
また、マーキングは、しゃがみながら前進し尿をするという独特なもので、飼育下の個体で観察されています。
繁殖と子育て

マレーヤマネコの繁殖生態は、最も研究が進んでいないネコ科動物らしく、多くの謎に包まれています。
現在わかっているのは飼育下での限られた観察データのみで、野生での詳しい繁殖行動や子育ての様子はほとんど解明されていないのです。
謎に満ちた繁殖生態
繁殖についてはほとんど分かっていません。
これは、マレーヤマネコの研究が困難なことを物語っています。
分かっている繁殖データ
- 妊娠期間:約56日
- 産子数:1~2頭
- 寿命:飼育下で最長14年となっています
子育ての推測
飼育下での観察から、母親は水辺近くの安全な場所で子育てを行うと推測されています。
子どもたちは、母親から泳ぎと水中での狩りの技術を学び、生後6〜8ヶ月で独立すると考えられています。
絶滅の危機と脅威

マレーヤマネコは現在、IUCN(国際自然保護連合)によって絶滅危惧ⅠB類に分類されています。
成熟個体数2,500頭以下という極めて危機的な状況にあり、生息地の急速な破壊と複数の脅威が同時に作用することで、絶滅のリスクが高まっているのです。
個体数についてもよく分かっていませんが、限られた情報からの推測によると、成熟個体の生存数は2,500頭以下と推定されています。
生息地の急激な破壊
マレーヤマネコが住む低地の半分以上が、バイオ燃料の原料となる農作物を育てる広大な耕作地へと急速に姿を変えつつあるという深刻な状況です。
主な脅威
1. アブラヤシプランテーションの拡大
東南アジアでは、パーム油生産のためのアブラヤシプランテーションが急速に拡大しています。
彼らの生息地である東南アジアでは次々と森林がプランテーションや農地などに置き換わっており、彼らの個体数がかつてより減っていることは間違いないでしょう。
2. 湿地の開発と汚染
マレーヤマネコの生命線である湿地帯が、水辺開発と農薬による水質汚染で急速に失われています。
ダム建設による水系変化も、主食である魚や甲殻類の生息環境を破壊しています。
3. 森林伐採

さらに、商業伐採と農地転換により、マレーヤマネコの隠れ家と移動ルートが失われているのです。
都市開発の拡大が追い打ちをかけ、生息域の分断化が深刻な問題となっています…。
その他の脅威
生息地破壊以外にも、マレーヤマネコは人間活動による直接的な被害と環境変化による間接的な影響に晒されています。これらの複合的な脅威が、既に小さな個体群をさらに圧迫しているのです。
1.人間活動による直接的な影響
- 違法な狩猟と取引
- ペット目的の捕獲
- 交通事故
- 漁網への偶発的な混獲

2.環境変化
- 気候変動による生息環境の変化
- 外来種の侵入
- 感染症の拡大
保全活動の現状

マレーヤマネコの保全活動は、研究の困難さと認知度の低さという二重の課題に直面しています。
しかし近年、国際的な法的保護の強化とカメラトラップ技術の進歩により、少しずつ保全活動が前進し始めているのです。
法的保護の強化
マレーヤマネコはワシントン条約の付属書Iに記載されており、国際取引は厳しく制限されています。
最新の更新された情報だとマレーヤマネコはタイ、マレーシア、インドネシアでは狩猟と取引が禁止されており、すべての生息国の国内法によって完全に保護されています。
研究の困難さ
そんなユニークなマレーヤマネコ、実はほとんど研究がされておらず、最も未知なネコ科動物の一種です。
研究がされていないのは彼らの見つけにくさによるところが大きいです。
研究の課題
- 夜行性で警戒心が強い
- 湿地という調査困難な環境
- 個体数が少なく遭遇が困難
- 生息地へのアクセスが限定的
カメラトラップによる調査

近年、カメラトラップ(自動撮影装置)を使った調査が進展しています。
研究チームは次に、この生息数を調べるために、ウィルティング氏の研究チームは1984年以降のマレーヤマネコの散発的な目撃記録を集めて繋ぎ合わせた結果、より正確な分布状況が明らかになりつつあります。
私たちにできること

マレーヤマネコは遠い東南アジアの湿地に生息していますが、私たち一人ひとりの行動が彼らの未来に大きな影響を与えることができます。
寄付、消費行動の見直し、情報発信など、身近なところから始められる支援方法があるのです。
寄付による支援
マレーヤマネコの保全に取り組む信頼できる団体への支援が重要です。特に、マレーヤマネコ専門の研究・保全プロジェクトを行う団体への支援が効果的です。
マレーヤマネコ専門の保全団体
Felidae Conservation Fund(フェリデー保全基金)

カリフォルニアに拠点を置く非営利団体で、野生ネコ科動物とその生息地保護に特化しています。
寄付の際に「Flat-headed Cat」とコメントすれば、100%がマレーヤマネコ保護に使用されます。
特徴
- マレーヤマネコ専用の寄付指定が可能
- 寄付の90%以上が直接研究・保全活動に使用
- ボルネオでのマレーヤマネコ研究プロジェクトを支援

世界最大の野生ネコ科動物専門保全団体で、現在マレーシア・ボルネオの2地域でマレーヤマネコの個体数調査を実施中です。
Small Wild Cat Conservation Foundation(SWCCF)

小型野生ネコ科動物の保全に特化した団体で、$200でカメラトラップ1台の設置が可能です。
International Society for Endangered Cats(ISEC)Canada

1990年設立の小型野生ネコ科動物の研究・教育に特化した団体で、マレーヤマネコの研究プロジェクトに資金提供しています。
持続可能な製品の選択
私たちの日常の消費行動は、遠く離れたマレーヤマネコの生息地に直接的な影響を与えています。
特にパーム油製品の選択は、東南アジアの湿地林破壊と密接に関係しており、認証製品を選ぶことでマレーヤマネコの生息地保護に貢献できます。
パーム油に配慮した消費
- RSPO認証(持続可能なパーム油)製品を選ぶ
- 原材料表示を確認する習慣をつける
- パーム油フリー製品を積極的に選択

また、責任ある観光の選択も、現地での保全活動を支える重要な手段となるのです。
エコツーリズムの支援
- 責任ある野生動物観光を選ぶ
- 地域コミュニティに利益をもたらす旅行会社を利用
- 現地の保全活動に参加できるツアーを選択
マレーヤマネコ豆知識

マレーヤマネコには、一般的なネコのイメージを覆す驚くべき特徴がたくさんあります。
これらの興味深い事実を知ることで、この謎に満ちた「水辺の忍者」の魅力をより深く理解できるでしょう。
ネコなのに泳ぎが得意!
マレーヤマネコの足には水かきがあり上手に泳ぎます。
一般的なネコが水を嫌うのとは対照的に、マレーヤマネコは水中での生活に完全に適応しています。
研究者の間では、頭部が流線形なのは泳ぐスピードを上げるためかもしれないという仮説もありますが、まだ確証は得られていません。
「水中でエサを洗う」賢いネコ
興味深いことに、彼らはアライグマのようにえさを水中で洗うことが知られています。
この行動は、獲物についた泥や汚れを落とすだけでなく、獲物の感触を確認している可能性もあります。
日本では見ることができない稀少種
そんなマレーヤマネコですが、残念ながら日本の動物園では見ることができません。
しかし、かつては東京の科学博物館でオスとメスの二頭が飼育されていたようです。
マレーヤマネコを見るには…
- 野生個体を探しに東南アジアへ行く
- タイなどの動物園を訪問する
- 科学博物館の標本を見学する
最も謎に満ちたネコ科動物
マレーヤマネコは最も研究が進んでいないネコ科動物のひとつです。
多くの基本的な生態が未解明で、研究者たちは限られた情報から生態を推測しているのが現状です。
まとめ

マレーヤマネコは、東南アジアの水辺に生息する極めて特殊なヤマネコです。
マレーヤマネコの特徴まとめ
- 水かきと流線形の頭を持つ唯一のヤマネコ
- 魚や甲殻類を主食とする水中ハンター
- 成熟個体数2,500頭以下の絶滅危惧種
- 最も研究が進んでいないネコ科動物
マレーヤマネコは、アブラヤシプランテーションによる生息地破壊と湿地の開発・汚染という深刻な脅威に晒されています。
さらに、違法な狩猟と取引も個体数減少に拍車をかけています…。
遠い国に住む私たちでも、信頼できる保全団体への寄付や持続可能なパーム油製品の選択など、保全に貢献できる方法があります。
また、正しい情報の発信と教育を通じて、マレーヤマネコの素晴らしさを多くの人に知ってもらうことも重要な支援となるのです。
一人ひとりの小さな行動が、この不思議で美しいネコの未来を変える力となります。
私たちと一緒に、マレーヤマネコが水辺で泳ぎ続けられる未来を守っていきましょう!